空を舞う金魚


あの時から時が進むのをどれほど想像しただろう。甘やかに時計が動き出し、千秋の心臓の秒針が振れることを、どんなに望んだだろう。でも現実には時は止まったままで時計が動き出すことはなかった。……砂本が千秋に声を掛けるまでは。

砂の中でひっそりと息をしていた千秋に水面の空気を与えてくれた砂本は、やさしい。逢坂が点数稼ぎって言ってたけど、全然そんな嫌味な感じじゃなく気遣ってくれる。今日だって千秋の帰り際にラインに「お疲れ様」と言って犬のスタンプを送ってくれた。

交換したラインも、どんどんメッセージを送ってくるような攻めじゃなくって、ふわっとしたクッションみたいに千秋が落ち着くところにフォローが入る感じ。毎日の「お疲れ様」と「おやすみ」のメッセージの積み重ねが増えていく。それと同時に千秋の心があたたかくてやわらかいものに包まれていくのを感じていた。千秋の心臓を射抜くような目で見てきた渡瀬とは違う。
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