空を舞う金魚

「……私、……高校で楽しいことなんてありませんでした。だから……、今更クラスメイトと会っても、何を話したらいいか、分からないです」

「俺のことも?」

不意に、渡瀬はそう言った。

え、と顔を上げると、渡瀬が真剣な目をして千秋を見てきている。一歩、給湯室の中に足を踏み入れた渡瀬が、もう一度言った。

「俺のことも、どうでもいい思い出だった?」

「そ……、れは……」

脳裏に思い浮かぶ、鮮やかな春の空を切り取った教室の窓。窓から舞い込んでくる風が教室の中の空気を静かにかき混ぜる。その空間に芯のあるはっきりとした声が通って……。

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