空を舞う金魚
「綾城さん」
ごみを纏め終わって、ベンチに座って山の上に広がる空の色の移り変わりをぼんやりと眺めていたら、渡瀬に声を掛けられた。何時の間にあの賑やかな人の輪から抜け出してきたのだろう。
「暑いでしょ。飲んだらいいよ」
そう言って千秋に冷たいウーロン茶のペットボトルを渡してくれる。お礼を言って受け取ると、渡瀬もベンチに座って手に持っていたアルコールをひと口飲んで、大変だったね、と言った。渡瀬は千秋の脇に置いてあるごみ袋を見ていた。
「いえ……。私、あれこれ雑用している方が性に合ってるので……」
「綾城さんは昔からそうだよね。高校の頃は誰よりも早く教室に来て黒板と黒板消しをきれいにしたり、窓開けて空気入れ替えたりしてたの、知ってるよ」
「え……」
びっくりした。誰も居ない教室で千秋が行っていた行動を見られていたなんて知らなかった。
「そういう……、他人(ひと)に気遣いの出来る、いい子だなあって思ったのが俺の気持ちのきっかけだった。仕事のこともそうだよね。些細なことだと思ってるかもしれないけど、それって縁の下の力持ちだ。そうやって出来てきてるのは、凄いと思うよ」
千秋のことを褒めてくれるのを嬉しいと思う。卑屈にならないで、本当に素直に嬉しいと思えたのは、渡瀬や砂本が千秋に繰り返し言葉をくれたからだ。
「……ありがとう……」
するりと、言葉が滑り落ちていた。渡瀬が少し目を見開いた。