空を舞う金魚
*
今日は課長の手伝いで、少し遅くなってしまった。十九時を回って玄関ホールまで下りると、何故か植山が其処に居た。驚いてしまって立ち止まると、植山は千秋に気付いて少し口の端を上げた。
「……っ、…………」
「此処に居て欲しくない、って顔してるわ」
「そ、……んなこと、は……」
立ち止まってしまうと、其処から動き出す理由が必要だ。何か……、と思っていたところへ植山が口を開く。
「あれだけ言ったのに、まだ未練を持ってるの? 時間は巻き戻らないのよ?」
巻き戻らない……。じゃあ、植山はどうして『今』、渡瀬に係わろうとするのだろう。
「私は私の気持ちが納得するまで行動するのみだわ。捕らわれてるんじゃない。自分がそうしたいから、渡瀬くんに会うのよ。貴女とは違う」
まっすぐ前を見る植山はきれいだ。まるで憂いがない。彼女は過去の一片たりとも後悔することはないのだろうなと思った。
今日は課長の手伝いで、少し遅くなってしまった。十九時を回って玄関ホールまで下りると、何故か植山が其処に居た。驚いてしまって立ち止まると、植山は千秋に気付いて少し口の端を上げた。
「……っ、…………」
「此処に居て欲しくない、って顔してるわ」
「そ、……んなこと、は……」
立ち止まってしまうと、其処から動き出す理由が必要だ。何か……、と思っていたところへ植山が口を開く。
「あれだけ言ったのに、まだ未練を持ってるの? 時間は巻き戻らないのよ?」
巻き戻らない……。じゃあ、植山はどうして『今』、渡瀬に係わろうとするのだろう。
「私は私の気持ちが納得するまで行動するのみだわ。捕らわれてるんじゃない。自分がそうしたいから、渡瀬くんに会うのよ。貴女とは違う」
まっすぐ前を見る植山はきれいだ。まるで憂いがない。彼女は過去の一片たりとも後悔することはないのだろうなと思った。