偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「櫂人さんの自宅近くの商業施設」


「わかった。今からそこに行くから、動くなよ。一緒にこっちに帰ろう」


「でも、私」


「大事な社員で妹同然のお前を放置したと聞いたら、姉貴に叱られるのは俺だぞ? 今日はちょうど姉貴の家で食事をする予定だったから、藍もおいで」


普段通りの明るい口調が、弱った心を優しく包み込む。

甘えてばかりいる自分が本当に情けない。


「うん、ありがとう。でも大丈夫。実家に戻るから」


「いいからたまには世話をやかせろ。今、姉貴の家にいるから、すぐに向かう」


「貴臣くん、本当に」


いいから、と告げる前に慌ただしく通話が切れた。

結局断り切れず、貴臣くんから所在地の詳細をメッセージで尋ねられ返信する。

電話をかけ直すが繋がらず、断りのメッセージはことごとく拒否された。

その間もずっと櫂人さんからの連絡は続いていた。

すぐ近くに置いてあるベンチに腰を下ろし、道行く人をぼんやり眺めていた。



どれだけ時間が過ぎただろう。

突如、周囲のざわめきが大きくなった。


「ねえ、あの人素敵ね」


「カッコいい! ひとりかな」


「あら、でも誰か捜しているみたいじゃない? 彼女とはぐれたとか?」


「あんなイケメンに私も捜されたい!」


キャハハと学生のような女の子たちの甲高い声が近くで響く。

その声につられ、ふと視線を向けると、長身の男性がスマートフォンを片手に周囲を見回して立っていた。


誰よりも見覚えのある、美麗な横顔に目を見開く。
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