偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「――俺の奥さんになってくれませんか?」


焦れたように、そしてどこか不安そうに紡がれた二度目の求婚に心が震える。

いつもどんなときも自信に満ち溢れた人なのに。

返事をしなくては、と気持ちだけは急くのに胸がいっぱいでうまく声が出ない。


「……はい、よろしく、お願いします」


やっとの思いで掠れた声で返事をすると涙の雫が頬をつたった。


「泣き虫」


眦を下げて涙を拭ってくれた彼を私は一生忘れない。


「よかった……断られたら俺はきっと一生立ち直れない」


柄にもない弱音を吐くこの人を心から愛しいと思った。



「ここに藍を連れてきて、俺の気持ちを伝えたいとずっと願っていた」


そう言って彼は長い腕で私を抱きしめる。

頬にあたる彼の胸から感じる鼓動は私と同じ早いリズムを刻む。

骨ばった長い指がそっと私の顎を掬う。


落ちて来た唇をそっと受けとめる。

柔らかな誓いのキスは涙の味がした。


「――愛してる」


「私も、愛してる」


必死に紡いだ気持ちはどうしても涙声になる。


「藍、帰ろう」


差し出された大きな手を迷わずにギュッと握りしめた。
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