偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「これからよろしく、奥さん」


ふたりで駐車場に向かっていると、彼が不意に立ち止まり、耳元で甘く囁く。

その声にこらえていたはずの涙があふれだす。


「俺の奥さんは可愛い泣き虫だな」


「だって……!」


「そうやってひとつひとつに感情が揺れるのが藍のいいところだ。藍はそのままでいたらいい」


真剣な表情で櫂人さんが骨ばった指で私の涙をそっと拭う。


「これから先、藍の涙を拭うのは一生俺の役目だから」


満足そうに口にする彼に、心臓が壊れそうな音を立てる。

一生、という単語がくすぐったくて、頬にカッと熱が集まる。

これ以上ドキドキする出来事はないだろうと思うのに、彼はいつもその限界値をあっという間に飛び越えてくる。

嬉しすぎるとなにを口にすればいいのかわからなくなるのだと初めて知った。


「でもこれからはあまり泣かないように……」


したい、と言いかけた私の言葉は突然のキスに呑みこまれた。

そっと唇を離した彼が、コツンと私の額に自分の額をくっつける。


「さっきも言ったが藍が泣いたら、俺が慰めるし一生守る。だから藍はなにも我慢しなくていい。これから先、俺は藍を悲しませないと誓うから」


「そんな言い方したら泣くに決まってるのに……!」


どうしてこの人はこんなにも私がほしい言葉を簡単にくれるのだろう。


「じゃあ慰めようか」


そう言って、再び唇を重ねる。

何回もまるで私を宥めるように優しく唇を啄む彼に気持ちが溢れる。

キスの合間に櫂人さんが優しく囁く。


「藍、ずっと一緒にいよう」


その瞬間、私はきっと世界で一番幸せな花嫁だったと思う。

もう決して迷わない。

私はこの人とずっとともに歩いていく。


end
< 208 / 208 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:492

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

皇命婚と告げた運命の伴侶に恋情を贈る

総文字数/127,137

ファンタジー219ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
キラナ・フォーリ   二十二歳  セレスタ帝国皇宮治療院薬師 × アレン・トゥーイッラ 二十五歳  セレスタ帝国魔術騎士団団長 トゥーイッラ公爵家長子 銀髪に紫と琥珀の目、希有な治癒の力をもつ秘されたメリハ族の直系――それが私。 メリハ族の直系は生まれたときから〝運命の伴侶〟が決まっている。 私の紫の目は、まだ見ぬ伴侶の色。 出現した手首の痣は、運命の強制力であなたを縛りつける。 「――これは非公式な皇帝命令による政略結婚だ」 美しく冷たい紫の両目は私を明確に拒絶する。 「俺たちの間に恋情など個人的な感情は存在しない」 長い指は触れるのを拒否するように強く握りしめられたまま。 私がセレスタ帝国最重要保護対象の、メリハ族でなければ。 あなたが〝運命の伴侶〟でなければ。 あなたが想う人との未来を邪魔するつもりはなかった。 「……君は、俺が守る」 あなたに恋情は贈れない。 ――私にその資格はない。 ★☆★☆★☆★☆★☆ ひめか様、温かな感想をありがとうございました!
婚活嫌いのパイロットは約束妻に恋をする
  • 書籍化作品

総文字数/102,971

恋愛(オフィスラブ)185ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
湯沢蕗(ユザワ フキ) 28歳 スターブルー・ライト航空株式会社  グランドスタッフ × 向琉生(ムカイ ルイ) 32歳 スターブルー航空株式会社 副操縦士 「ーーじゃあ、俺と結婚しようか」 さらりと言われた言葉。 躊躇いのないプロポーズが私の心を乱す。 「大切にすると約束する」 指先に落とされた、彼の薄い唇の感触に胸が詰まった。 私は実家のカフェを守るため、あなたは数々の迷惑行為対策と縁談よけに。 お互いの利益のための契約結婚。 『――もう十分がんばっているでしょう』 名前も知らない、三年前に偶然出会った男性。 孤独と不安、さみしさ、負の感情に押しつぶされそうになっていた私を救ってくれたーーきっと、訓練生。 あの男性があなたであるはずがないのに。 どうして、同じ言葉を口にするの? 名前を呼ぶ声に。 触れる指先に。 伝わる体温に。 心が壊れそうな音を立てる。 ……この想いを、どう表現していいのかわからない。 ☆★☆★☆★☆ こちらの作品はエブリスタ様でも投稿しております。 ☆★☆★☆★☆ こちらの作品は『ようやく手にした最愛の妻に、凄腕パイロットは揺るがぬ熱情を貫く』と改題し、内容を大幅に変更してスターツ出版株式会社様のマカロン文庫様より5月21日に発売していただいております。 よろしければぜひ、読んでいただければ幸いです(*^^*)
表紙を見る 表紙を閉じる
浦部 沙和(ウラベ サワ) 二十八歳 都市銀行 ローン事業部主任 × 板谷 愁(イタヤ シュウ) 三十一歳 板谷ホールディングス 社長  憧れの上司に失恋して、泥酔した夜。 庭園で、あなたに出会った。 目覚めたのは高級ホテルの一室。 生まれて初めての状況に、思わず逃げ出した。 『警戒心がないのか?』 『最初から俺に取り入るつもりだったのか?』 なんて傲慢な勘違い。 でも、 最低最悪な失態を晒したのは私。 『俺を本気で好きになれ』 『本物の婚約者になればいい』 どこまでも強引なあなたに何度も振り回される。 ねえ、あなたは元婚約者を忘れていないでしょう? 恋のリハビリをしたいのは、私じゃなくてあなたじゃないの? 甘い目を向けないで。 俺のものだ、なんて言わないで。 リハビリなんか、したくない。 もう、叶わない恋なんていらない。 ♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩ ひめか様、ふーみん様、素敵な感想をくださりありがとうございました。 たくさんのいいねを贈ってくださった皆様、本当にありがとうございます。 ♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩♬♩ こちらの作品は以前ベリーズカフェ様で投稿していたものを2025年に改稿したものです。愁視点等も加筆いたしましたので、少々内容が変更になっております。以前に読んでいただいた読者様にも、また別作品として楽しく読んでいただけましたら幸いです。エブリスタ様にも投稿いたしております。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop