偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
それからしばらくの間は、普段となにも変わらない毎日を過ごしていた。

いつものように出勤し、自宅に戻るという判子で押したような日々の繰り返しだ。



栗本副社長からは二日に一度くらいの頻度で電話やメッセージが届く。

内容は事務的なものや私の日常を尋ねるといった他愛ないものがほとんどだ。

漏れ聞こえてくる周囲の噂話から彼の多忙さがよくわかる。

声が疲れているように感じたのも一度や二度ではない。

それでも欠かさずに連絡をくれる副社長に戸惑いを隠せない。

私から連絡を取ろうと何度も思ったけれど、彼の仕事状況や立場を考えると急用でもないのにと躊躇ってしまう。



彼の経営手腕と優秀さは折り紙つきで、副社長に就任して始めた改革や業務により、収益が大幅に増加したのもよく知られている。

それほどの人がなぜ、結婚しなければ後継者から外すなどとと言われるのか。

尋ねても、干渉を嫌がる人だからきっと不愉快にさせるだけで答えはもらえないだろう。

わかりきっているのに、どうしてか気持ちが滅入った。
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