偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「ごめんなさい……全部真木さん任せかと思ってたから」


「真木は秘書だが、俺の私生活を管理するのが仕事ではないからな。いい大人なんだし、自分の身の回りの世話くらい自分でできる」


どこか拗ねたような声に、慌てて口を開く。


「違うの。忙しいのにすごいなと思っただけ。どこにそんな時間があるんだろうって」


「四六時中仕事をしているわけじゃない」


小さく声を漏らす彼の姿は、普段の冷静で毅然とした副社長の姿とは似ても似つかない。


「もしかして、この部屋の掃除も?」


「ああ、大体は自分で済ませているが……最近はハウスクリーニングを頼んでいるな」


「それなら私が掃除をしていい? プロの方のように完璧にはできないだろうけど……」


「構わないが、お前に負担がかからないか? 同居を決めたのは、家事をしてもらいたいからじゃないし、俺の生活習慣は気にしなくていい」


眉根を寄せる櫂人さんに首を横に振る。


「どうしてもつらいときや無理なときは、プロの方にお願いするかもしれないけど……せっかくこれから夫婦として暮らしていくのだから、お互いを知って理解する機会や時間があってもいいんじゃないかと思うの」


一気に言って、下を向く。

膝の上で無意識に握りしめた拳は、震えて嫌な汗をかいている。

干渉するなと最初から釘をさされている。

私の主張は恐らく彼の考えを真っ向から否定するものだ。

この人に嫌われて拒否されても構わない。

そう思っていたはずなのにどうして反応が気になるのだろう。
< 91 / 208 >

この作品をシェア

pagetop