丸い課長と四角い私
間違いなく、いい男なんだと思う。
部下のメンタルケアも仕事のうちだって、私に毎月息抜きさせてくれるくらい、気遣いもうまいし。

「お待たせしました」

「ああ、うん」

顔を上げた蔵田課長がにっこり笑って、頬に熱が昇ってくる。
だってまるで、ずっと待っていた愛しい人がきた、みたいな顔だったから。

「どうかしたの?」

「……いえ」

云える訳ない。
蔵田課長の笑顔に、ドキドキしました、なんて。

「今日はなに食べる?
もう遅いから、そんなに選べないけど。
……そうだ。
魚のおいしい居酒屋知ってるんだけど、そこでいい?」

「……待っていただいてたのに、申し訳ないんですが。
今日はもう、帰ります」

「どうしたの?
魚が不満?
君がいつも莫迦のひとつ覚えみたいに云う、肉の方がいい?」

珍しく、心配そうに蔵田課長が私の顔をのぞき込む。

……けれど。

「食欲、ないんです。
夜になったらもしかしたら、おなか空くかもって思ったんですけど。
やっぱりダメ、みたいです」

「……」

笑って誤魔化してみたら、蔵田課長は黙り込んでしまった。

……ほんとは。
仕事が忙しいから、じゃなくて。
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