丸い課長と四角い私
「さっきから云ってるけど。
やりもしないでできるできないって決めつけるの、早くないかい?」

「だって、やってみてダメだったら、どうしたらいいんですかー」

とうとうナルが泣きだし、抱きしめようと手を伸ばすと払いのけられた。

「やってみて、ダメで、嘉規さんから捨てられたら、私、どうしていいのか、わからないし」

ナルは泣きながら、トン、トン、と力なく俺の胸を叩いてくる。

「だから、いま、ちゃんとお別れしたら、悲しいのが少なくてすむかな、って」

「ナルさんは僕のこと、嫌いになった?」

フルフルとあたまを振り、思いっきりドンと叩く。

「嫌いになれたら、楽なのに」

「ナルさん?」

「嫌いになって、お別れしたら、嘉規さんのいない淋しさなんて、感じないですむのに」

「……うん」

そっと抱きしめると、今度は抵抗されなかった。
腕の中でナルは、子供みたいにわんわん泣いている。

「嘉規さんの、体温に、慣らされて、もう、ひとりじゃ、眠れない」

「そう。
それは困ったね」

胸に当たる、ナルの眼鏡の堅い感触。
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