丸い課長と四角い私
ゆっくりと顎を持ち上げると、いつものように目が泳ぐ。

「ナルさん。
……俺を見ろ」

二枚のレンズ越しにナルの視線が俺に向かうと、逃げられないように絡め取った。

「結婚しよう、鳴海」

「……」

じっと俺を見つめたまま、黙っているナル。
挟んでいる二枚のレンズは互いに汚れ、感情を知る妨げになっている。
そのうち、ゆっくりとナルの喉が動き、ごくりと音を立てた。

……そして。

「……はい」

掠れた、小さな声が聞こえたかと思ったら、ナルの目尻から涙がつーっとこぼれ落ちた。



翌朝。
一緒に朝食を取りに行こうとすると拒まれた。

「ダメですよ!
みんな、知らないんだから」

「ナルさん?
みんな知ってるよ、僕たちが付き合ってること」

「はい?」

ナルは鳩が豆鉄砲でも喰らったみたいな顔で俺のことを見ている。

「昨日のこと、覚えてないの……?」

「昨日のこと、ですか……?」

みるみるナルの顔が赤くなっていき、とりあえずは部屋に戻ってからのことは覚えているようで安心したものの。

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