丸い課長と四角い私
「なんか、嘉規さんが転勤って話を聞いたあたりから、その、……プロボーズされたあたりまでの記憶が曖昧です……」

……ああ。そう。

もしかして、木山に勧められるがままに飲んでいたのって、俺がいなくなるのが悲しくてやけになっていたの?
そういう可愛いとこ見せられると、朝から……。
眼鏡に手をかけると抵抗された。

「ほら!
早く朝食、食べに行かなきゃ集合に間に合わなくなりますし!」

「関係ない」

かまわず眼鏡を抜き取ると、じと目で一瞬、睨まれたものの、すぐに目を閉じる。
思う存分、唇を味わうだけではもの足りず、布団に、などと思っていたところ。

「くらたー。
俺もそろそろ着替えたいし、入ってもいいかなー?」

ドンドンと空気の読めない激しくドアを叩く音に、舌打ちしたのは云うまでもない。



帰りのバスの中で。
ナルは俺の手を握り、寄りかかってぐっすり眠っている。

……少し前。
結婚の報告をした。
下部部長に若干小言をもらったのは仕方ない。
けれどこれでもう、ナルにちょっかいかけてくる奴はいなくなるだろう。

「よしのり、さーん……」

眠ったまま、ナルがにへらと笑った。
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