マリオネット★クライシス

「それが怖いなら、黙ってなさいよ」

「っ……」

浮気なんかじゃない――でも、悔しいけど返せなかった。

口コミの怖さを、わたしは知ってる。
その情報が正しいとか間違ってるとかそんなこと関係なく、プライバシーまで踏み込んで叩かれる、容赦のない悪意。

わたしは慣れてるからいい。でも、ジェイは違う。
何も関係ない彼を、そんなことに巻き込みたくない。


黙り込んだわたしを満足そうにチラ見した小坂さんが、別人みたいな笑顔を振りまいた。

〈そうだ、これから私たちと一緒にいらっしゃいません? 父が経営してるレストランが近くにあるんです。招待させていただきたいわ〉

それからはもう、わたしには聞き取れない難しい英語でペラペラとしゃべりだして……たぶんだけど、お父さんのレストランがどんなに有名なお店か、熱弁を振るってるみたい。

「えー遥夏、すごーい。英語めちゃうま! ねえ陽葵は何て言ってるかわかる?」
「わかんないよー。でもとにかく、一緒に遊ぼうってことじゃない?」
「たぶんそうだね。写真、撮らせてくれるかなー」


どうしよう……なんか変なことになっちゃった……。
ハラハラしながらジェイの方を見ると、意外なことに小坂さんの英語にちゃんと耳を傾けてるよう。

え……まさか興味ある、とか?

胸の奥がツキンと痛んだ気がして、ギュッとそのあたりを握り締めた。

彼女、可愛いもんね。
読者モデルもやってるらしいし……惹かれてもおかしくない。

――もっと笑わせてくれる面白い子かと思ってた。ほら、ドラマだとそうでしょ?
――芸能人だっていうからどんなオーラ出てるのかと思ったけどさ、なんか、フツーすぎてがっかり!

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