マリオネット★クライシス
ガコン、と少々危なっかしい音を立てて、エレベーターが動き出す。
キョロっと目をやれば、ゴミ出しの注意とか不審者情報とか、壁には生活感半端ない紙が貼られてて……こんなところで誰と会うっていうんだろう?
「えっと、ジェイ? ここで何するの?」
まったく展開が読めなくておっかなびっくり聞いてみたら、彼の返事はめちゃくちゃシンプルだった――「変装」。
「へ、へんそう?」
ええっと……聞き違い? 変身だったらまだ、そういうエッチが好きなんだなって理解もできるけど……ってチラリ。
横目で伺うと、悪戯っぽく煌くチャコールグレイの瞳とぶつかった。
「ユウは女優なんだろう? だから一緒に街歩いてもバレないようにした方がいいと思ったんだけど、違った?」
バレないように?
あぁもしかして、眼鏡とか帽子とか、そういうアイテムを選ぶってこと?
それなら“変装”で合ってる。
でもなぁ……ってわたしは苦笑い。
「全然売れっ子じゃないから、誰も気づかないと思うけどね。街を歩くって、この後買い物でもするの?」
「デートに決まってる」
「あぁ、なるほど。でー……でデートっ!?」
想定外の答えに、ギョッと固まる。
「最高の思い出にしてやるって言っただろ?」
「そそそれは、覚えてるけど――」
どもりつつ言いかけ、ハッとした。
なんとなく、飲み込めた気がしたから。
見知らぬ相手にポイ捨てするな、って言ってたし……つまり、初体験が少しでも素敵な思い出になるように、そのための準備、的な?
疑似恋人っぽい雰囲気を作ろうとしてくれてるってことか。
確かに、その方が安心できるかもだけど。ただ……
「わたしなんかとデートしてもつまらないよ?」
素顔の自分が面白みのない陰キャ人間だってことは、よくわかってる。
クラスメイトからも「テレビと違う」ってドン引きされるくらいだし。
こんな遊び慣れてそうなイケメンを楽しませるなんて……