マリオネット★クライシス

例えば、小悪魔な莉緒をずっと演じればいいのかな? できなくはないけど、でも彼女、悪役だしなぁ。
ブツブツひとしきり口の中でつぶやいていたら、ふと、じっと真顔で見下ろされてることに気づいた。

「えっと……何?」
なんか、不機嫌?

「……いや、なんでもない」

何かを追い払う様にジェイはかぶりを振る。

「ユウが心配する必要はない。むしろオレの方が、ユウに楽しんでもらえるように頑張らなきゃな。大事なもの、もらうんだし?」

言い切って、その爽やかな美貌に意味深な微笑を浮かべたりするから、急に顔が熱くなってきちゃうじゃないか。

「ああのっ、でも……ほら、今更だけど、ジェイは旅行中でしょ。わたしのためにそんなに時間使わせちゃったら――」
「ほんとに気にしないでいいから。実は今夜ちょっと用事があるんだけど、それまでどうやって時間つぶそうか悩んでたところだったんだ。ユウが付き合ってくれたら、こっちも助かる」

「そ、そう、なの……?」

聞いてみたけど、返ってきたのは煙に巻くようなウインクだけ。
用事っていうのがほんとかどうか、結局のところはわからなかった。

わたしが気を使わないようにって優しさなのかもしれない。

つまり結論は、やっぱりいい人だなぁ、ってこと。
パッと見はクールな感じだけど、捨て猫とか、見て見ぬふりできなさそう。

子猫と遊んでる彼が簡単に想像できて、ほっこりしちゃった。


じゃあ……いいのかな、このまま甘えちゃおうかな……

心の中でなんとか答えを出したところで、ガコン、と再びレトロな音と振動があった。目的階に到着したらしい。

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