マリオネット★クライシス
「でも、変装って……ここで? 普通のマンションみたいだけど」
彼は前にも来たことがあるんだろう。エレベーターを降りると、左右に広がる内廊下を迷いなく右へ曲がり、奥へ進んでいく。
「ん、友達の実家があるんだ」
なるほど。その友達に、アイテムを借りようと?
だけど、わたしに貸してくれるってことは、その友達って――女性、だよね。
まさかまさか、彼女さんの登場とか?
それはさすがに、ちょっと……どうなの?
微妙にモヤッとしたものを感じつつ、三輪車やベビーカー、家族分の傘……廊下にはみ出したファミリー層を感じさせるアイテムを横目に歩いていく。
「あの……友達って、どういう人? 日本人?」
「日本人だけど、今はいない。旅行中」
「は? 旅行? いないって、じゃあ――」
「大丈夫。頼んだのは、彼女の母親だから」
「……へ?」
は、母親?? どういうこと?
予想の斜め上を行く返事に、どこからツッコんでいいのか、言葉が見つからない。
何度か瞬き、とっちらかる頭の中をバタバタと整理していると、
ガチャ!
突き当りの、どうやら目指す部屋らしいドアが開き、ココア色のワンピースを着た女性が話しながら出てきた。
「じゃあ宮本さん、お邪魔しました。朝から押しかけた上に無理言っちゃって、ほんとごめんなさい。よろしくお願いします」