マリオネット★クライシス

「なんだ、知ってた?」
「当たり前だよ!」
前のめりで叫んじゃった。

だって宮本静と言えば、小物からファッション、ライフスタイルまで、毎月どこかの雑誌で特集ページが組まれるっていうカリスマスタイリストで、世代に関係なく支持されてる女子たち憧れの存在。
わたしは一緒に仕事したことないけど、あの瑠衣さんが『今日宮本静が来るんだよね』って緊張してたくらいだもの。

どうりでどこかで見たことあると思った!

「へぇ、静さんてそんな有名人だったんだ」

興奮気味なわたしの説明に、ジェイは本気で驚いてる様子。
ホントに知らなかったらしい。

「だから言ってんじゃん、モデルやる気あるなら、いつでもエージェンシー紹介できるよって。信じる気になった?」
「はいはい、信じる信じる」
「あはは、適当に言うねー」
ジェイの暴言も気さくに笑い飛ばした静さんは、つとわたしへ視線を向けた。

「まぁあたしのことはおいといて、今日の主役は彼女、だよね」

え? しゅ、やく?

「素材、悪くないだろ?」
「うん、最高」

2人から穴が開くほど見つめられて、思い出す。
わたしがここにいることの理由を。

「イメージは壊しちゃっていいんだっけ?」
「もちろん。全部お任せするけど、むしろ真逆、くらいがおもしろいんじゃないかと思うんだよね」
「オッケー。腕が鳴るわ~」

ニンマリ静さんの口角が上がり――、ようやく理解した。

どうやらジェイは、本気で彼女に“変装”のお手伝いを頼んだらしい。
しかもこの様子だと、眼鏡や帽子だけって雰囲気じゃなさそう……。

スタイリストさんの相場をだいたい知っているわたしが、気が遠くなりかけたのは言うまでもない。

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