子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 緊張で震えながら、また一歩進む。

 顔を上げそうになるも、すぐにうつむいて堪えた。

 ベールの奥を見られるわけにはいかない。少なくとも今はまだ。

 ――ごめんなさい。

 何度、心の中で彼に言ったことだろう。

 長身によく似合う白のタキシードは、私のためにあつらえたものではない。

 本当はもっと彼の姿をよく見たかった。私の夫になる人へ、心からの祝福と喜びを伝えたかった。

 それが叶わない理由は、ひとつだけ。

 足を止め、彼の隣でゆっくりと息を吐く。

 ああ、結婚式が始まってしまう。もう私は逃げられない。

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