子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む

 この場で確認のために広げるのももったいないほど、美しい色留袖だ。

 色は肌の色に近い落ち着いた薄いピンク。全体的に無地だが、裾に鶴や花の模様をあしらった扇の柄が付いている。帯も着物の色に合わせ、白をベースに柔らかいピンクで花が描かれていた。

 どちらも実家では最高級品に分類されるものだ。

「私なんかに似合うかな……」

「私なんか、って言うな。俺が似合うと思ったんだから、似合うに決まってる」

 保名さんは私の頬を軽く引っ張ると、いつも通りお土産の和菓子をテーブルに置いた。

 そんな彼と着物とを交互に見つめ、胸が温かい気持ちで満たされるのを感じながら微笑する。

< 259 / 381 >

この作品をシェア

pagetop