子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 触れた手は柔らかくて、とても熱い。

 こんなに優しい手で触れられたのは、母が生きていた時以来ではないだろうか。

「もう怪我するなよ」

 もっと触れていたいと思ったのに、手はなんのためらいもなく解けてしまった。

 何事もなかったかのように立ち去った彼の背中が見えなくなり、ふとお礼を言わなかったと気付く。

 母が亡くなってから初めて優しくしてくれた人。

 絆創膏をくれて、私が痛くならないようにおまじないをかけてくれた。

 彼が家を訪れていた葛木家の長男、保名だと知ったのはそのすぐ後のこと。

 私の心の支えとなった彼への感情が恋だと知るまでは、もう少しかかった。

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