子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 だけど、初恋の優しい人は私ではなく妹と結婚してしまう。

 いつの間にか廊下を磨く手が止まっていた。

 見咎められる前に掃除をしなければ。夕飯までに倉庫の整理を終えないと、食事を与えてもらえない。もっとも、人が住めそうなほど大きな倉庫を数時間で整理し尽くすのは不可能に近いが。

 薄汚れた雑巾に顔を向けると、その上に置いた手にぽたりとなにかが落ちた。

 晴れているのに雨漏りでもしているのだろうか、と顔を上げようとして気付く。

 水の粒は私の目からこぼれ出たものだ。頬を伝い、またぽたりとひと粒落ちる。

「……私なんかが結婚できると思ったの?」

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