子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 一応、琴葉が『俺が』知らないのではと思った理由はわからなくもない。

 俺の実家である葛木家は老舗の和菓子屋だ。

 名物は創業当初からある栗餅。他にも水まんじゅうや葛切り、塩大福や最中など、ひと通りの和菓子が揃っている。

 もちろん俺も幼少期から、お菓子と言えば家の和菓子だった。

 落雁を食べたことがない、上生菓子と苦い茶の組み合わせの素晴らしさが理解できないという友人たちの声に、衝撃を受ける程度には和菓子との距離が近い人生だ。

 今だって、職人にはならなかったが家業に携わっている。

 そんな俺だから、洋菓子を知らないかもしれない、と琴葉が思うのも無理はない。

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