子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 このねっとりと濃厚な甘さに無味の寒天がよく絡む。

 とろっとした黒蜜が舌先に独特の風味を残し、次いでもっちりとした求肥に心を満たされた。

「おいしいなぁ」

 しみじみ言うと、なぜか保名さんが笑った。

 思わずこぼれ出た、とでもいうような優しく温かい笑みに、甘味で満たされる時とは違う充足感を胸に感じる。

「なあに?」

「おまえがそういう顔をするから、もっと食わせてやりたくなるんだ」

 ほら、と保名さんは残ったもうひとつの求肥を食べさせようとしてくる。

「だめ。先に保名さんも食べて」

「いつ食おうと俺の勝手だろ」

「溶けちゃうよ。白玉だって硬くなるし」

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