子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 戸惑いを浮かべていた瞳には、いつの間にか微かな怒りが滲んでいる。

 彼の問いに答えられるはずもなく、目を閉じて握った手に力を込めた。

 この場で『花嫁』に対して疑問を覚えているのは彼ひとりで、参列者たちは新郎新婦の最も幸せな瞬間を写真に収めようと身を乗り出している。

 彼はそれ以上、私になにも尋ねなかった。

 その代わりとでも言うように、なんの感情もこもっていない形だけのキスが唇に落ちる。

 結婚式が終われば、改めて彼は私に問うのだろう。

 本物の花嫁はどこに行ったのだ、と。
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