子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 私が生まれる前に増築された三部屋の洋室を除けば、他の六部屋はすべて和室である。おかげで私は畳の香りに生まれた時から慣れ親しんでいた。

 声がした方へ向かう途中、くすんだ色の着物を手にした“お手伝いさん”とすれ違う。

 この家には家族だけでなく、こうした手伝いをする人々も多く生活していた。家事全般はもちろんのこと、この家の人間が快適に過ごせるよう心を配るのが彼らの仕事だ。

 軽く頭を下げて会釈するも、年若い彼女は私をちらりと見やっただけで足早に立ち去った。

 本来、雇い主である宝来の人間に対してそんな真似をすることは許されない。だけど彼らは私にだけは、嘲りと嫌悪の目を向ける。

< 6 / 381 >

この作品をシェア

pagetop