子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
「琴葉! まだなの!?」

 再び奥の部屋から苛立ち交じりの声が響き渡った。

 心臓を鷲掴みにされたような痛みと恐怖を感じながら、先ほどよりも急いで彼女のもとへと向かう。

 廊下の奥には茶室があった。客を招待した時や、私以外の家族がくつろぐ時に使われる部屋だ。

 艶やかな漆塗りのテーブルに手紙を広げてお茶を飲んでいたのは、妹の弥子(やこ)だった。その隣には彼女とよく似た義母がいる。

 母は現れた私を見ると、上品に口もとを隠して嘲笑した。

「よっぽど掃除が忙しかったようね。それとも、弥子に呼ばれてもすぐ来られないほど、遠くにいたの?」

「……すみません」

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