子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
『もしもし、琴葉? 新婚生活はどう? 私のおかげで結婚できてよかったね』

 弥子の声だ。

 今度は別の緊張を覚えながら、慎重に答える。

「お久し振りです。……お元気そうですね」

『まあね。そっちもいい思いをしてるらしいじゃない? 保名さん、愛妻家なんだって?』

 耳に馴染んだ嘲笑が鼓膜にこびりついて私の中に流れ込む。弥子が楽しげに笑う姿が目に浮かぶようだった。

 保名さんが愛妻家だなんて、誰から聞いたのだろう。それが真実ではないことを知っているけれど、もし彼がそういうふうに表で言っているのだとしたら話を合わせた方がいいのかもしれない。

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