私だけを愛してくれますか?

催事部は四、五人を一つの班にして、三つの班に分かれている。
班ごとにイベントの企画を練り、その企画が通れば運営までを担当するのだ。

自分たちの企画が通ればとてもやりがいがあるが、そうそう通るものでもなく、他の班が立て続けに企画を通したりすると、その運営だけを任されたりもする。


『企画から運営まで』

私はこれを班の目標に設定している。


私が所属している班は、四人で構成されている年齢の若いチームだ。

私がチーフで(実力ではなく、年が一番上という理由により)、サブは一つ下の小森賢人(こもり けんと)君。

後は四つ下の宮下瑠花(みやした るか)ちゃんと京極誠(きょうごく まこと)君だが、瑠花ちゃんは昨年自分から希望を出して、催事部に異動してきた。

「おはよう」

自分のデスクのある島に着いて、机の下にカバンを入れる。


「おはようございます!」

私の机を拭きながら返事を返してくれるのは、瑠花ちゃんだ。

個人の机はそれぞれがきちんと整理整頓することと決まっているが、瑠花ちゃんは私の机を毎日拭いてくれる。

「瑠花ちゃん、何度も言うけどわざわざ私の机を拭いてくれなくてもいいのよ」

「いえ!チーフの机は私が綺麗にします。私が一番弟子ですからっ」

勢いよく返事が返ってきた。


瑠花ちゃんと京極君は、なぜか私の一番弟子争いを繰り広げている。
どちらも素直でよく働いてくれるいい子たちなのだが、仲があまりよろしくない。

小森君に言わせると、私のせいだというのだ。

「宮下と京極は、チーフを崇拝してますから。どっちがチーフの一番弟子か争ってるんですよ」

なんじゃそりゃ。

京極君は朝が強くないので、出社がいつも時間ギリギリになる。
その点、瑠花ちゃんは早く出社してくるので、私の机を掃除し一番弟子をアピールしているってことらしい。

私の一番弟子になって何の得になるというのだろう。

社内では不愛想で通っているのに、なぜか班の若い子は懐いてくれる。


「まぁ、あまり無理のないようにね」

雑巾を手に、キラキラした瞳で見つめてくる瑠花ちゃんに、ボソッと忠告をした。


京極君が出社し、全員が揃ったところで打ち合わせだ。
今、うちの班は六月初旬に開催される『夏・京都』というイベント準備に取り組んでいた。

このイベントは若い女性がターゲットで、夏に関する商品を六月の早い時期に先駆けて売る、というのが主旨である。

取り扱う商品は、京都で製造販売している会社やお店のものに限定して、京都を盛り上げるという目的もあった。

これはうちの班の企画が通り、運営までを担当するのだが、瑠花ちゃんの企画が初めて通った記念すべきイベントでもある。それだけに、瑠花ちゃんの『夏・京都』にかける熱意は並々ならぬものがあった。

それはそうだろう。

私も初めて自分の企画が通った時は、嬉しくてたまらなかった。

瑠花ちゃんもこれから企画がどんどん通るようになっていくわけだが、最初の成功体験は貴重なもの。私はチーフとして、なんとしても成功に導きたいと思っている。

こう見えても素は体育会系。頑張っている子をサポートし、応援するのは好きなのだ。

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