私だけを愛してくれますか?

京都の七月は、祇園祭に始まり、祇園祭に終わる。

七月の上旬に山鉾(やまぼこ)と呼ばれる山車が組み立てられ始め、二十四日の後祭、山鉾巡行にクライマックスを迎える。

くらき百貨店でも、毎年様々なイベントを繰り広げ、社員総出で祇園祭を盛り上げていた。

特に七月二十一日からの四日間は力を入れる。山鉾巡行の三日前から観光客は急増し、二十三日の『宵山』がピークになるからだ。この四日間は全員出社で、表に立つ社員はみんな浴衣を着ることになっていた。

催事部も毎年売り場の助っ人として駆り出されるが、私は『後方支援』担当で、裏方一辺倒だった。表に立つのが嫌なので、何かと理由をつけて逃げ回っていたのだが…

どういうわけか、今、私は瑠花ちゃんと一緒に、呉服売り場で浴衣を見立てられている。

「吉木チーフ、ものすごくお似合いですっ!」

手を握り締めて興奮しているのは、『夏・京都』でお世話になった坂井さんだ。

坂井さんに勧められたのは、紺地に百合の花が咲く浴衣。百合が白と薄い藍色の二色になっていて、帯は百合に合わせた白色だ。

「そ、そう?」

熱のこもった視線に耐え切れず、思わず顔が引きつる。

「吉木班は、一番目立つところに配置されますからね。私が最高の四人組にしてみせますっ!」

「アイドルグループじゃないんだから…」

力強く決意する坂井さんに苦笑いだ。

坂井さんの言う通り、うちの班は今年、一番目立つ表玄関のインフォメーション支援の担当になってしまった。

表玄関は一番来客の多い場所で、「京都のお土産には何がいいですか?」から始まり、「〇〇鉾にはどうやって行けばいいですか?」といった、観光案内所並みの質問まで受ける。

いつもの受付メンバーだけでは捌き切れないので、催事部から支援をするのだが、それがうちの班に当たってしまった。

班のメンバーには表に立ってもらうとして、私はサポートに徹しようと思ったのだが、瑠花ちゃんが、チーフも一緒じゃないと嫌だと駄々をこねた。

一緒じゃないと嫌って。これは仕事だから。

困っていたところに、なぜか部長からダメ出しがきた。

「班ごとに全員同じ行動をとるようにと、副社長からチェックが入った。吉木さんも、インフォメーション支援に入るようにしてや」

なんですか、それ。
副社長がそんな細かいことに口出しするなんてありえないでしょ。

私は呆れかえったが、瑠花ちゃんはホクホクと喜び、小森君からは「チーフが催事部で表に立つのは初めてだし、これも記念ですから」となだめられて、私もインフォメーション支援に入ることになったのだ。

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