恋に異例はつきもので
 彼の胸に顔をうずめたまま「でも、どうして」と呟き、彼を見上げた。
「この間、オフィスで抱き留められたとき、部長、ぜんぜん動じてなかったじゃないですか。だからてっきり」

 わたしの言葉に、部長はいったん身体を離すとソファーにいざなった。
 今度はわたしもおとなしく従った。

「合気道の有段者だからな、俺は。気を整えれば、心臓の動きぐらいコントロールすることができる」
 そう言って、彼はわたしの手を自分の左胸に導いた。

「ほら、今もぜんぜん普通だろう」
「あっ、ほんとだ」

「それにあのときは俺のなかにある理性を総動員して耐えてた。じゃないと、あそこであのまま、お前を押し倒してしまいそうだったからな。さすがにオフィスじゃまずいだろうと思ってな」
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