捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「もうずっとここにいていい。今は何も考えなくていいから」

父が言い、母が目尻の涙を拭う。

「今日はお庭の手入れを一緒にしましょう。暑いから、休憩しながらね」

ああ、私は馬鹿だった。早く家族に相談すべきだったのだ。私がよかれと思って耐えてきたことは、結果家族を悲しませることになってしまった。

「奏士くんから連絡がきてる。今日の夕方、弁護士の門司さんが来るって」

私ははっと顔をあげた。
昨晩、父が郷地の義両親に電話をしたのは知っている。父は簡潔に『京太くんの愛人問題を聞いた。里花とは離婚させる』と伝え、向こうの話は一切聞かずに電話を切った。
あとは、奏士さん紹介の弁護士、……沙織さんと功輔さんのお父様らしいけれど、その方に間に入ってもらう予定だ。

「弁護士さんまで。奏士くん、里花とのこと本気で考えてくれているのかしら」

母の言葉に、私はゆるゆると左右に首を振る。

「奏士さんはきっと、妹みたいな気持ちで私を見てるの。家族がひどいめにあったって思って、極端な考えになってるだけだと思う」

母に言い訳しながら心の中ではそれを否定していた。
彼はきっと本気だ。奏士さんは私を娶ろうと考えてくれている。それが恋愛感情なのか、家族愛なのか、本人にも曖昧なのかもしれないけれど。
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