奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
愛を捧ぐコーダ


仕事を早めに終えた奏は病院に急いだ。だが、病室には誰もいない。
ナースステーションで話を聞くと、梨音はすでに退院したという。

「春名梨音は退院した?」

「はい。一応お止めしたのですが、ずっとかかっている産科があるからどうしてもすぐに退院したいと言われましたので」

今日、梨音になにがあったのか、奏は気になった。

「昼間に、なにか変わったことがありませんでしたか?」

奏は若い看護師になんでもいいから思い出してくれと頼んだ。
梨音や奈美が自分を避けるのは仕方がないが、急に退院を決めた理由があるはずだ。

「午後、お見舞いがありました。年配の奥様と若い方と別々でしたけど」

看護師が記録を見て教えてくれた。おそらく、母と小暮奈美だろう。
看護師に礼を言うと奏は急いで車に戻った。

奏はまず母親に会う必要があると思い、間野家へ車を飛ばす。

実家とはいえ、何年も前に梨音と暮らすために出ていたし、京太のことがあってからは避けていた屋敷だ。

(もう限界だ。いくら親でも、していいことと悪いことがある)

母との無意味な対立は避けようとしてきたが、今日こそきっちり話をつけなければならない。
奏が車を停めて屋敷に入ると、たまたま父と母が揃って居間に座っていた。
奏は覚悟を決めて、母と向き合った。

「母さん、話がある。」

母は、まだ惚ける気でいるようだ。奏を見ても平然としている。

「突然帰ってきたと思ったら、なにかしら?」

父は妻と息子の間の険悪な空気に驚いたようだ。

「何事だい、奏? 珍しく家に帰ってきたと思ったら喧嘩腰じゃあないか」 
「お父さんは黙っていてください」

いつもは冷静な奏が珍しく感情をあらわにしているのを見て、父は妻と息子の話を聞くことにしたようだ。
ただ、なんのことだか見当もつかないのか怪訝な表情を隠していない。


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