奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
急な話で驚いただろうに、父も梨音のことを一番に考えてくれたようだ。
「お父さん、ありがとうございます」
「今は彼女の身体を最優先に考えよう。彼女はどこにいるんだ?」
奏は冷静に対応してくれる父を頼もしく思った。
「心当たりはあります。迎えに行くつもりです」
「すぐに保護しなさい。命の危険があるなんて、余程のことだ」
夫と息子の会話を黙って聞いている敦子は、ソファーに座ったままポロポロと涙を流している。
「あとのこと、よろしくお願いします」
「必ず、無事に連れて帰って来い。仕事は休んでもいいが、辞めることは許さないからな!」
奏は大きく頷くと、泣き続ける母に楽譜の束を突き付けた。
「これは梨音が夏のコンクールに出品するつもりで作った曲だ」
敦子が震える手で楽譜を受け取った。
「今さらだが、梨音はあなたが大好きだったんだ。楽譜の一枚目を見て欲しい」
そこには『Aに捧ぐ』と丁寧な文字で書かれてた。
「自分の才能を見つけてくれて、援助してくれたあなたへの感謝の気持ちで作ったピアノソナタだ」
「ああ……わあああっ」
慟哭する敦子を残し、奏は間野家を出た。