奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
奏はその足で『日暮亭』に行き、章子たちに頭を下げた。
「梨音の居場所を教えてください」
梨音を守ってくれている人たちに、これまでの経緯と母のしたことを正直に話した。
「そんなことがあったんですか……」
幼い頃からのふたりの関係を知って、章子と敏弘はただ驚いている。
「私がいたらないばかりに、母の暴走を止められませんでした」
後悔の滲む奏だったが、章子から冷たい言葉を突き付けられる。
「でも、間野さんだって、梨音ちゃんを信じなかったんでしょ」
章子はまだ奏が信じられないし、ボロボロでこの店に来た日の梨音の姿がどうしても忘れられないようだ。
「本当に、あの日については後悔しかありません。いくら責められても仕方のないことをしてしまった」
奏は苦渋の表情を浮かべながら、誠実に話し続ける。
「私は彼女に酷いことを言ってしまったんです。許してくれとは言いません。小暮家の皆さんからなんて思われていても構いません」
まっすぐにふたりを見つめて話す奏に迷いはなかった。
章子や敏弘からはなんの言葉も出てこない。
「ただ、梨音と子どもが元気でさえいてくれたら……それだけでいいんです」
奏の必死の願いに、梨音の病状を聞いていた敏弘が口を開いた。
「あ、あの、間野さん。梨音ちゃんが倒れた時、心臓が弱ってるって妻から聞いているんですが」