奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~


「なんだって? あたしは聞いてないよ、そんな大事なこと!」

章子は梨音の体調を初めて聞いたらしく、慌てている。

「奈美と梨音ちゃんから口止めされてたんだ。すまない」

「なんてこった……」

章子は首を横に振りながら、がっくりと椅子に座り込んだ。

「かなり危険なんです。母子ともに命がけの出産になるかもしれません。私に出来ることがあるなら、なんでもしたいんです」

奏の表情は梨音と子どもへの切実な思いに溢れていた。
とうとう章子の心にも奏の想いが届いたのか、ポツリと居場所を漏らした。

「梨音ちゃん、うちの嫁のお祖母ちゃんのところです」
「退院してすぐ、奈美と祖母の家に行きました」

敏弘が祖母の住所をメモして奏に手渡した。奏が腕時計を見ると、もう午後十時近い。

「もうこんな時間か……」

訪ねるには遅すぎる。その気持ちが伝わったのか、敏弘が安心するように声をかけてきた。

「無事に着いて、梨音ちゃんは祖母の家にいます。奈美はこっちに帰ってくる途中かな」








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