奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
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奈美の祖母の家は、海と木々の緑が美しい茅ヶ崎市内にあった。
奏が敏弘から教えてもらった家は、海岸線から少し離れた美術館などがある一角を通り過ぎた辺りのようだ。
(ここに、梨音がいる)
奏は早朝から出かけてきたが、驚かせては梨音の体調に悪いだろうと思い直した。
すぐにでも訪ねたいくらいだったが、十時まで近くのパーキングに車を停めて待っていた。
(そろそろか……)
ゆっくりと車から降りると、蝉時雨を聞きながら敏弘がメモしてくれた簡単な地図を見ながら緑の多い横道に入る。
どこからか、かすかにピアノの音が聞こえた。
(梨音の音色だ)
何年も聞いてきたのだ。間違えるはずがない。
(この曲はラヴェルか……)
お腹の大きな梨音はピアノが弾きにくいのだろう。いつもよりゆっくりとした演奏だ。
その音に導かれるように、奏は一軒の家の前にたどり着いた。
(この住所に間違いない)
メモと門札の苗字が一致するのを確認する。
そこは古い門構えの家だった。手入れされた松の枝が門を覆うように伸びている。
演奏が途切れたのを見計らって、奏はチャイムを鳴らした。
ブザーのような鈍い大きな音が外まで聞こえてる。
「はーい」
玄関の引き戸が開けられて、グレーの髪をまとめた涼しげなサマードレスの女性が顔を見せた。