奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
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思いがけない奏の告白は、梨音には信じられないことだらけだった。
いつも自信に溢れ梨音を光の中に導いてくれた人、梨音の世界の中心にいた人が項垂れて許しを請うのだ。
自分がマンションを出たあと、ずっとロサンゼルスに出張していたことも初めて知った。
帰国してからあの小切手を見つけて、真実がわかったらしい。
「京太から、どうしてあんなことをしたのか聞いたんだ」
梨音はゆっくり顔を上げて奏の目を見た。
「間野家から自由になるために、母にいわれるまま君を陥れたと話してくれたよ」
ずいぶん前にあの夜の誤解が解けていたから、奏は自分を探してくれていたのだ。
そうとは知らないまま奏を避けていたから、梨音はずいぶん遠回りをしていたらしい。
「あの夜、君の話を信じなくて申し訳なかった。俺しか知らないと思っていた梨音のホクロのことを言われてカッとなってしまったんだ」
身体の特徴をあらためて言われた梨音は、頬を染めた。
「あれは……発表会のドレスを仕立てる時に、敦子先生が見てるから……」
敦子が京太に話していたとしか思えない。
「母ともきっちり話してきた。まさか病院まで押しかけていたなんて、親でも許せない」
「敦子先生と話した?」
「ああ。親子関係よりも、なによりも梨音が大事なんだと両親に伝えてきた」
きっぱりと、奏は梨音に告げる。
「梨音、君が俺を簡単に許してくれるとは思っていない。だが、君と子どものことは俺に心配させてくれ」
「奏さん……」
「今度こそ、間違えたくない。君たちのそばにいさせてほしい。ふたりのことを俺に守らせてくれ」
奏に懇願される日がくるなんて、梨音には信じられなかった。
「梨音がいないとダメになりそうだ」
いつも冷静でプライドの高い奏が、なりふり構わずに梨音を失いたくないと告げてくる。
そして、子どものことも守ると誓ってくれている。
「梨音、君のエリーゼのためにを初めて聞いた時から愛している。ずっと、愛していたんだ」
梨音の胸に喜びが溢れてきたが、同時に瞳からはすっと涙が零れた。
「……信じたい。今の奏さんの言葉を信じたい」
「梨音!」
「でも、恐い。またあなたに責められたらと思うと……」