奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「俺は君をそんなに追い詰めてしまったのか?」
梨音の言葉に絶望を感じた奏の表情は、みるみるうちに暗くなった。
「父が亡くなってから、私を置いていかない、ひとりにしないって約束していたのに」
これまで我慢していた気持ちが溢れてきたのか、梨音は初めて奏を責めた。
「すまない、梨音」
「あんな思いは、もう……いやなの」
梨音は小さな拳で奏の胸を叩き始める。
「約束したのに……」
何度も、何度も、梨音は奏の胸を叩く。
梨音には弱々しい力しかないが、奏にとっては重い痛みだろう。
「梨音」
これは、あの日からずっと梨音が感じていた心の痛みなのだ。
「気がすむまで、殴れ。何度でも」
ついに梨音は泣きながら奏のシャツを握りしめた。
「あなたを愛しているの」
涙で濡れた顔を奏に向けると、梨音はやっと伝えたかった言葉を口にした。
「奏さん、この子はあなたの子です」
「わかっている。わかっているよ、梨音……ありがとう」
奏はそっと、梨音を抱きしめた。二度と壊さないように、大切な宝物を両腕の中に閉じ込める。
「梨音も子どもも、愛している。ずっとずっと、愛していくよ」