奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~


***

 
爽やかな秋の気配を感じる頃、梨音は男の子を出産した。
予定日より少し早く2800グラムで生まれたが、元気な子で『(りつ)』と名付けられた。

臨月まで油断はできなかったが、梨音の体調も心配されたほど悪くならず自然分娩が出来たくらいだ。




結局、出産ギリギリまで梨音は茅ヶ崎にある奈美の祖母の家で過ごした。

わずかな期間に色々なことがあり過ぎたから、梨音の心と身体には疲労が溜まっていた。
体調を安定させるには穏やかに過ごすのが一番だと医師にも言われ、茅ヶ崎での暮らしを選んだのだ。
奈美の祖母がおおらかな人で家族のいない梨音を温かく受け入れてくれたし、茅ヶ崎の自然環境と懐かしい雰囲気が心身ともに癒してくれた。

奏は梨音に再会した日から、仕事以外のすべての時間を梨音にあてた。
あえて梨音と同居せず、奈美の祖母の家の近くにマンションを借りて都心まで通勤した。
それだけでも忙しいだろうに、朝夕には梨音の元を訪ねて気を配るという徹底ぶりだ。
産院の検診日には心疾患を抱えた梨音のために仕事を休んで付き添うし、万一に備えて茅ヶ崎から都心の病院までヘリコプターの手配を整えていたくらいだ。 



 
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