奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
仕事一筋だった奏の変化になにかあったのかと会社では噂になったが、梨音にだけは甘い副社長を知っている秘書の守屋だけは『これが本来の奏の姿だ』と涼しい顔をしていた。
その他にも梨音と梨音の周りではいろいろなことがあった。
梨音の作曲したピアノソナタは、敦子がこっそりコンクールに応募していた。
大賞は逃したものの、優秀賞を受賞したのは梨音にとっては信じられない結果だった。
梨音は単位もとっていたし卒業演奏会も本人不在のまま無事に終わっていたので、音大は卒業したことになっていたのも驚きだった。
敦子は夫の勧めで婦人科を受診し、更年期の適切な治療とカウンセリングを受けた。
あれほど感情の起伏が激しかったのも、悪い方へばかり物事を考えてしまったのも更年期のためだったのだ。
夫に支えられて治療に専念し、自分がしたことの重大さを理解した敦子は梨音に申し訳ないと何度も詫びた。
そして治療が進むと次第に気持ちも安定し、初孫をその手に抱くと涙を流して喜んでいた。
孫が無事生まれたことで奏との関係も徐々に回復しつつあり、以前の敦子に戻る日も近いだろう。
『日暮亭』も、相変わらず繁盛している。
変わったのは梨音の代わりにアルバイトを雇ったことと奈美が三人目を妊娠したことくらい。
奏が関わっている大型商業施設に出店するかどうかは、まだ家族会議中とのことだ。