奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~

 
梨音を自分のそばに置き、自分だけが愛してやればいいと思い上がっていた。
梨音も奏だけに依存していると思っていたが、どうやら反対だったようだ。
恋人の存在に依存していたのは奏の方だったから、梨音がマンションにいないだけでこの有様だ。

疲れのせいにするのは卑怯だが、あの日はまともな状態ではなかった。
梨音の浮気相手が自分より若い京太だと思い込み、梨音の身体の特徴を言われたことで逆上してしまったのだ。
それこそ、母の思うつぼだった。

(ただ、梨音に謝りたいだけなんだ)

今も視察に向かう途中だが、車の中で考えるのは梨音の事ばかりだ。

「副社長、車内で恐縮ですがこちらの資料をご覧ください」
「ああ」
「これから視察するのは、大規模施設の候補地のひとつですが……」

秘書の守屋が淡々と説明していく。

情熱を傾けていた新規事業にも、以前ほど奏は夢中になれない。
梨音がそばにいないだけで、こうも気持ちが沈むのだと思い知る。
守屋の説明を聞いてはいたが、今の奏に候補地を絞るのは困難だった。



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