奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「テナントに、地元の人気店をという話が出ておりまして」
守屋がノートパソコンから、何かの映像を見せた。
「例えばこちら、最近ローカル番組で紹介された行列の出来る店です」
「うん」
「昭和から続く商店街の中にある洋食屋ですが」
守屋が見せる映像をぼんやりと奏は見ていた。
レトロな雰囲気の店で、オムライスやビーフシチューが定番らしく客たちも笑顔で味を褒めている。
ぼんやりと映像を見ていたら、カメラが厨房にいるコックを捉えた。
細身の柔和な顔の男性と、笑顔で答える逞しい女性。レポーターが親子の経営だと伝えている。
その時、インタビューを受けてる母と息子の後ろを女性が通り過ぎるのが一瞬映った。
「梨音……?」
見間違いかと思ったが、急いでパソコン画面に映った映像を戻して拡大する。
親子シェフが並んで立つその後ろを、トレーを持って白いエプロン姿の女性が横切った。
(梨音!)
服装も髪型も以前とは違っているが、奏が見間違えるわけがない。
「守屋、この店に大至急案内してくれ」
いきなり豹変した奏に、守屋は面食らった。
「は?」
「視察は後回しだ。急げ!」
「はいっ」
運転手に指示を伝えると、黒塗りの社用車は『日暮亭』を目指した。