凄腕パイロットの極上愛で懐妊いたしました~臆病な彼女を溶かす溺愛初夜~
フロアに戻ってからは目まぐるしい忙しさだった。
NAL925便から降りた乗客への対応や、着陸や離陸を待っていた他の飛行機の誘導、騒動を聞きつけたテレビ関係者からの問い合わせなど、グランドスタッフだけでなく空港関係者総出の勢いだった。
乗客乗員誰ひとり怪我をすることなく、賢明な判断をした虹輝さんを賛辞する声は場所を選ばずどこからも飛んでいた。
紺野さんの読み通り、火災が広がる可能性を避けた選択だと評価されたらしい。
明日、虹輝さんは国土交通省事故調査委員会からの聴取を受ける予定でいて、その前に上層部からの聞き取り調査が入るそうだ。
「お帰りなさい」と伝えたいのに、遠目から一瞬しか彼の姿を捉えられなかった。
時間はあっという間に過ぎ、珍しく少しの残業を経て帰路に着く。終電はもうないのでタクシーに乗り込み、自宅マンションの住所を伝えようとして口を噤んだ。
虹輝さんの帰りを待っていてはダメだろうか。いくらなんでもそんなに遅い時間まで拘束されたりはしないだろうし。
「お客さん? どうされます?」
タクシーの運転手の声に急かされ、咄嗟に口から出たのは虹輝さんのマンションへ向かう道の説明だった。
バッグの中に忍ばせてある電子キーに触れ、ドキドキと高鳴る胸で何度も深呼吸を繰り返した。