凄腕パイロットの極上愛で懐妊いたしました~臆病な彼女を溶かす溺愛初夜~
「うまいな、これ」

 椎名さんはちゃんと味わえたようで、その感想に嬉しさが隠しきれなかった。

「おいしいですよね! 椎名さんの口にも合ってよかった」

 ほくほくした気持ちになって、ふふふっと声を漏らす。すると隣から射るような視線を浴びて我に返った。

 しまった。なごみすぎた。

 緩んでいた口をキュッと結んで、なにか話題はないかと思考を巡らせる。しかしすぐには思い浮かばず、心の中で浮かんだ台詞は『いつになったら出発するんだろう』というものだった。

「あの、食事もまだみたいだし、お忙しいならここで失礼しますよ? マンションはすぐ近くなので、タクシーを拾えば十分そこらで帰れますので」

 椎名さんの体調が心配だからという空気を醸し出して提案する。

「重たい荷物を持ってまたタクシー乗り場まで移動するのは大変だろう。それにこの雨だ。タクシーの利用客は多いだろうし、すぐに乗れるかわからない」

 その通りなのでグッと詰まる。

「新川さんは人に気を遣いすぎるところがあるね。だからこそお客様の気持ちに寄り添った、丁寧な接客ができるんだろうな」

 いきなり話がすり替わってポカンとした。

 丁寧な接客って、私の存在を知っていただけじゃなく仕事ぶりについても認識しているの? しかも今の口振りからするに高評価をもらえている。
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