白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

「余計なお世話です」
「まぁ、怪盗アプリコット・ムーンをとっとと捕まえることができれば、そのような煩わしい思いをすることもなかろう……」

 むっとした表情の甥を見下ろし、アイカラスは嘆息する。優秀だった王弟の末息子でありながら旧大陸の蛮族の奴隷を母に持つがゆえに王族の恥さらし、灰色の白鳥と言われているウィルバーは母親に似たのか情熱的で一途な男だ。
 憲兵団長として多忙な任務についているにも関わらず、ノーザンクロスの娘との仲は良好だという。
 だが、ノーザンクロスの姫君が持つ密命を知る王は、ふたりの関係が最悪な形に陥る前に離縁させるべきなのではないかと危惧している。

 ――ローザベル・ノーザンクロス。怪盗アプリコット・ムーンとして“稀なる石”をつかった大魔法を扱えるもの。

 ローザベルはラーウスに古くから暮らす豪族の娘で、なかでも星詠みの一族と畏れられているノーザンクロス家の姫君として、幼少期よりスワンレイク王家の人間から目をつけられていた。
 なぜなら彼女が持つ古代魔術のちから……そのなかでも未来を確変するちからを、ときのスワンレイク王マーマデュークが欲していたからだ。
< 18 / 315 >

この作品をシェア

pagetop