白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 ローザベルは“やりなおしの魔法”で自分の存在をスワンレイク国内から消し去った。国王をはじめとした古代魔術と深い関わりを持つ一部の人間はローザベルのことを完全に忘れることはなかったが、ウィルバーはたしかにすべてを忘却していた。
 きっと、古代魔術研究者の異母兄ゴドウィンの助言が、彼の気づきを生んだのだろう。そしてローザベルと夫婦のときのように愛しあったことで、ウィルバーにかけられていた魔法に、罅が入った――……
 その罅からゆっくりと染み出してきたのが、かつて愛した女性の名前――ローザベル。その、花の離宮で鈴なりに咲く薔薇の品種名こそ、アプリコット・ムーン。
 身体と名前が重なりあい、融合したことで、ウィルバーは記憶を持たないまま、愛するローザベルを取り戻したのだ。

「大袈裟なものか。ローザ……俺のアプリコット・ムーン」
「ウィルバーさま」
「どうか、すべてを教えてくれ……なぜ王家への反逆ともとれる行為までして、“稀なる石”を盗んだんだ? 大きな魔法をつかって、何をしようとしていたんだ?」
< 212 / 315 >

この作品をシェア

pagetop