白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

「ひとまず、退位の件は保留にする。フェリックスには引き続き国王名代を勤めてもらうがな」
「と、いいますのは?」
「夢を見たのだよ……エセルの」
「王妃さまの、夢をですか?」

 スワンレイク王国王妃エセル・スワンレイクは二年前に馬車の事故で亡くなった悲劇の王妃である。怪盗アプリコット・ムーンがいつぞやに盗んだ“六月の紫(ヴィオレットユーニ)”と呼ばれるティアラは、そもそも誰のあたまを飾ることもなく埃に埋もれる運命にあったのだ。それをわざわざ美術館に飾らせたのは、彼女を偲ぶ意味があったのだが……いま思えばそれだけではなかったのかもしれない。
 怪盗アプリコット・ムーンが捕まった際に、盗まれた品は勝手にもとあった場所へと戻された。王妃のティアラも例外ではない。
 王の手元へ戻ってきた王妃のティアラは、どこか嬉しそうに見えた。その理由はわからなかったが、仮死状態になる眠り薬を飲んで夢を見ている際に、真実は判明する。

「わしはまだ、生きてやるべきことがある、と叱咤された」

 そして懇願されたのだ、夢のなかで。

「“六月の紫”を、ウィルバーの嫁さんのあたまに飾れ……と」
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