白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

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 昏々と眠りつづけるローザベルを花の離宮の主寝室へ運んだウィルバーは、主が留守にしている間に整えられた部屋を見て、苦笑を浮かべる。
 国王アイカラスが気を利かせてくれたのだろう、寝台の上には森を彷彿させる皺ひとつない濃緑色の敷布がかけられ、門前で咲き誇っているアプリコット・ムーンの花首や花びらが散らされている。作業机のうえにも両手で抱えきれないほどの色とりどりの薔薇の花が束ねられた状態で透明な花瓶に生けられており、甘い芳香を漂わせている。
 まるで新婚初夜を髣髴させる部屋の様子だが、ウィルバーには夫婦だという自覚がない。なぜなら、この寝台で彼女を目覚めさせ、今度こそ正式に求婚するのだから。

「ローザ、ごめんね……服を脱がすよ」

 寝台にローザベルを横たわらせ、ウィルバーは慎重に黒い服を脱がせていく。この黒いワンピースは、ジェイニーが用意したのだろうか、以前のつるんとした布地よりもふわふわしていて、くるみボタンが襟元から胸元まで縫いつけられた小洒落たデザインだ。ふちどりを飾るレースも黒く、肌が見えないよう幾重にも袖口を飾っている。
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