白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 ――国王の特別なちからを借りて、怪盗アプリコット・ムーンを卑劣な罠にかけるため。

 正直、騙し討ちという方法はすきになれない。けれど、こっちも王命がかかっている。それに、愛する妻が言っていたのだ、「怪盗アプリコット・ムーンをつかまえたら、一緒の寝室で寝てあげる」と。

 妻のローザベルもまた、古代魔術を嗜むノーザンクロスの姫君である。けれど、彼女が扱う魔法は日常生活で精霊のちからを借りる程度の、ちっぽけなものだ。現場で女怪盗と対峙する際に感じる膨れ上がった魔力と比べたら微々たるもの。
 ただ、怪盗アプリコット・ムーンの予告状を見たときに面白そうに笑っていた。

「風の精霊が運んできたのね」

 魔術を嗜む女怪盗は簡単にウィルバーの場所を特定することができるのだろう。だからこうも毎回ピンポイントに杏色の封筒を届けに来るのだ。ローザベルがいう、風の精霊を頼って。
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